赤を身にまとい、元気になる日。
暮らしのエッセイ|vol.2
元気が出ない日は、赤を身につけるようにしている。
赤いワンピース、赤い鞄、赤い口紅。
赤をまとうだけで、強くなれる気がするのはなぜだろう。
みずみずしく可憐な苺、真夏の太陽、バラの花束。
秋の日に見惚れた紅葉やカエデ。シャキッと香るりんご、静かに燃える暖炉の炎。
ドライブで観た、海辺の夕日。
赤の記憶はいつだって、生きる力を与えてくれる。
赤を身につけるには、実はちょっとだけ勇気がいる。
派手だとか、目立つとか。
そんな心配、本当は必要ないのに、いつのまにか気にするようになってしまった。大人になるって、ちょっと寂しい。
でも、だからこそ、赤を着る日は特別なのだ。
去年の秋、デートで出かけた喫茶店。
ほんの少しの勇気を振りしぼり、わたしは赤を着て行った。
赤、似合うね。
その一言がうれしくて、頬まで赤くなったあの日のことを、わたしはきっと忘れない。
一緒にジュースを飲んで、他愛ない話をして。
そんな小さな日常は、とてつもなくかけがえのないものだった。
アルバムの写真を見ながら思い出すとき、心にほんのり灯りがともる。
人に、自分に、やさしくなれる。
会いたい人。食べたいもの。欲しいもの。叶えたい夢。
知りたいことも、やってみたいことも、わたしにはまだ山ほどある。
失敗続きで「今日はダメかも」と思った日、ふとした瞬間、不安な気持ちになった日は、赤の思い出を辿ってみよう。
ちょっとだけ勇気を出して、赤を身につけてみよう。
赤いワンピース、赤い鞄、赤い口紅。
雨の日だって、赤をまとえば、きっと元気になれるから。
登場したアイテム
文:奥村まほ / 写真:CHIHIRO URABE
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